口呼吸が子供たちに与えている危険
口呼吸が子供たちに与えている危険
このブログでは口呼吸が子供たちに与えている悪影響について現在わかっていることをお伝えしていきます。
2021年に発表された大規模な疫学調査¹によれば、日本の子供たちの31%は誰が見ても明らかな口呼吸、つまりお口ぽかん、さらに隠れ口呼吸も含めれば80%もの子供たちが口呼吸をしていると言われています¹。
¹Environmental Health and Preventive Medicine 2021
お口ぽかん、口呼吸は低位舌症
口呼吸をしている子供のほとんどが低位舌症(ていいぜつしょう)であると他のブログでお伝えしました。
低位舌症とは文字通り、舌が本来あるべき正しい所になくて、低い位置に落ちてしまっている状態です。
しゃべっている時には舌は自由に動いていますが、しゃべっていない時は舌先はスポット(図1)に常に軽く触れているのが正しい状態。ここで大切なことは「常に」ということです。
スポットとは上の真ん中の前歯2本の裏側の歯ぐきの部分です。
健全な状態とは「スポットに舌先が軽く触れて、きちんと口を閉じている状態」です。
これが鼻呼吸ができる状態です。
舌がスポットに常に触れている大きな大きなメリットは、図2のように舌根(ぜっこん=舌の付け根)が気道から引き離されることです。
舌がスポットに常に触れていれば舌の付け根も挙上するため気道が開きます。
つまり空気が吸いやすいように気道が広くなる。
これがお子さんの呼吸にとってとても大切な状態です。
一方で口呼吸の子は低位舌症、つまり舌がスポットについていません。(図3)
なぜ口呼吸の子は低位舌症なのでしょう。
なぜならば舌がきちんとスポットについていれば巨大な肉の塊である舌が邪魔をしてしまい口から空気を吸うことができません。
舌がスポットにつかずに下がっているからこそ口で息ができるのです。
(舌をスポットにつけて、少しだけ口を開けて空気を口で吸ってみてください。とても吸いずらいことがわかります。)
スポットに舌先が付いていないと口呼吸になる。
口呼吸の結果、お子さんの身体にはどんなが変化が起きてしまうのでしょうか?
上の図、図3を見てください。
舌がスポットから離れると舌根沈下(ぜっこんちんか=下の付け根が気道におちこむこと)が起きているのがわかりますか?
舌根沈下が起こるととどうなるでしょうか?
図をじっくり見るとわかってきます。
どうでしょうか?
気道が舌根によって狭められてしまいます。
つまり空気が吸いにくい状態になってしまっています。
気道が狭くなり、空気が吸いずらくなると子供たちは気道の狭さを補うために頭を後ろに傾けるようになります。
頭を後ろに傾けると気道が開くからです。
子どもが意識してそうするのではなく身体が無意識のうちにそういう姿勢をとらせます。
生きていくための防御反応です。
頭を後ろに傾けると目線が上がり前が見えなくなってしまいますね。
前を見るには背中を丸めて猫背にするしかない。(図4)
これが猫背が作られるメカニズムです。
口呼吸の子供は夜、睡眠時に深い眠りにつくことができない。
睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠の2種類があります。
わかりやすく言うとレム睡眠は浅い眠り(夢を見ている)、ノンレム睡眠は深い眠り。
ノンレム睡眠はさらに第1相、第2相、第3相、第4相の4つの層に分かれており、第1相から第4相になるにつれて眠りはより深くなっていきます。
そして、お子さんが成長発育していくうえでとても大切な成長ホルモンは深い眠りであるノンレム睡眠の第3相、第4相で分泌されます。
しかし口呼吸をしていると第3相、第4相まで到達しずらくなるんです。
その結果、成長ホルモンの分泌が減少します。
まさに「寝る子は育つ」ですが、いくら長い時間寝てもノンレム睡眠の第3相、第4相にならなければ効果的な睡眠とは言えません。
成長ホルモンは下垂体から分泌される子供から大人に成長していくためにとても大切なホルモンの一つです。
少し難しい話になりますが成長ホルモンは肝臓や骨の先端近くにある軟骨に働きかけて成長因子(IGF-Ⅰ)の産生を促します。
成長因子の作用によって骨が成長し、身長が伸びていくのです。
成長ホルモンの分泌量は1日のうちでも変動し、夜間深い眠りにつく時、つまりノンレム睡眠の第3相、第4相になった時に盛んに分泌されます。
口呼吸をしていると子供はノンレム睡眠の第3相、第4相に達しずらい、つまり1日24時間の成長ホルモンの分泌量が減ってしまうので身体の成長発育に影響を受けることになります。
低位舌によって舌根沈下が起こり気道が狭くなることをお伝えしました。
さらに、低位舌の子供が横になって眠りについたとき、重力によって舌根がさらに沈下して気道を完全にふさいでしまう(図5)場合があります。
気道が完全にふさがれてしまうと睡眠時無呼吸が生じます。
睡眠時無呼吸とは睡眠中に呼吸が何度も中断される睡眠障害を言います。
本来睡眠によって体は疲労から回復していきますが、睡眠中に酸素不足になるため朝目覚めても疲労が回復していません。
そして、日中の活動中に眠気が突然襲ってきます。
例えば車の運転中に突然、眠気が襲ってきたら危険ですよね。
睡眠時無呼吸の方は一般ドライバーの2.5倍も交通事故を起こす確率が増えるそうです。
そして、睡眠時無呼吸の子供は大きなダメージを受けることになります。
睡眠時無呼吸は睡眠中の一定時間、呼吸が完全にストップした状態です。
つまり、息止めを繰り返している状態です。
脳は多量の酸素を必要としています。
脳の重さは体重の約2%と言われますが、吸った酸素の25%は脳が消費するほど酸素が必要です。
特に成長期のお子さんは脳が発育しているため多量の酸素が必要です。
睡眠時無呼吸で脳への酸素供給が減少したら影響は大きいことが容易に考えられます。
「統計によれば、イビキや睡眠時無呼吸などの睡眠障害を経験した子供の40%はADD(注意欠陥障害)、ADHD(注意欠陥多動症)、または学習障害を発症する」²ことがわかっています。
²Goyal A,Pakhare AP,Bhatt GC,Choudhary B,Patil R(2018)Association of pediatric obstructive sleep apnea with poor academic performance:A school-based study from India.Lung India 35:132-136
さらに、「子供がイビキをかいていて、8歳までに治療せずに放置された場合、子供の精神的能力を永久的に20%低下させる可能性は80%」³と言われています。
³Catalano P,Walker(2018)Understanding Nasal Breathing:The Key to Evaluating and Treating Sleep Disordered Breathing in Adults and Children.Curr Trends OtolaryngolRhinol:CTOR-121.
これらの報告は口呼吸が発達障害にも関連していることを示唆しています。
しかし、ADD(注意欠陥障害)やADHD(注意欠陥多動症)の原因の一つの可能性が口呼吸による小児の睡眠呼吸障害であるという認識が日本ではまだまだ少ないのが現状のようです。
私はこども達にこのように質問します。
「お目めは何のためにあるの? 」
「お耳は何のためにあるの?」
「お鼻は何のためにあるの?」
「お口は何のためにあるの?」
お口は食べるため、しゃべるため。
お鼻はにおいをかぐため、呼吸をするため。
幼い子供たちにとって良い呼吸とは。
静かに、落ち着いて、まるで息をしていないように、
鼻で息をすることです。
幼い子供たちにとって悪い呼吸とは。
口で息をする。
静かでない呼吸。
肩や胸で息をする。
うるさい呼吸。
正しい呼吸とは鼻先に鳥の羽1枚が乗っかっていても吹き飛ばない、
そんなイメージの呼吸です。
本日のまとめです。
- 舌は常にスポットにつける。(しゃべっていない時は常に)
- 正しい鼻呼吸をする。
- 口呼吸がお子さんの成長に重篤な結果を及ぼす可能性が示唆されている。
私たち親は誰でも「わが子にはこうなって欲しい」、という理想のわが子のイメージを持っています。
愛するわが子ですから当然ですよね。
その理想のわが子を現実にするために一番大切な第一歩が実は身近なことである、呼吸かもしれません。
このブログが親御さんの子育てに少しでも役立てばうれしいです。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
医療法人社団SED
理事長 山口和巳